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5つの伝説を知れば納得! 「イギリストースト」が青森人に愛される理由

5つの伝説を知れば納得! 「イギリストースト」が青森人に愛される理由

工藤パンの平井一史さん。テーブルに並ぶのはイギリストーストシリーズ

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 青森と言えばリンゴだが、イギリストーストは青森県のソウルフードである。同県でしか購入することができず(一部他県でも取り扱いあり)、年間出荷数は500万個。同県内のみで消費されている量となるため、人口約132万人の同県で換算すると、1人あたり年間で3個以上は食べている計算になる。「イギリストーストを食べたことがある?」という質問は、青森県人には愚問と言われるほど愛されている。

 イギリストーストは、青森県青森市に本社がある「工藤パン」が1967(昭和42)年ごろに発売した菓子パンで、マーガリンとグラニュー糖を山型食パン2枚で挟んだだけのシンプルな作り。焼いてもいないのにトーストと言い切る名前の由来は、創業者・工藤半衛門の一存だったといわれている。後にイギリス大使館から国旗の使用を許可され、包装デザインにユニオンジャックを使用している。

 同社の平井一史さんによると、全国的に注目を浴び始めたのは2011年に「秘密のケンミンSHOW」(日本テレビ系列)で紹介されてから。「なぜ青森で受け入れられているのか?」という質問に、平井さんは5つの理由を挙げてくれた。

■青森にある工藤パンの工場でしか作れない

「パンを流すラインが大手の工場より短いため」と苦笑する平井さん。ラインの短さがパンの乾燥を防ぎ、食パンのもっちりした食感を残すという。類似品が各地で販売されるようだが、浸透せずに販売を終了するケースは少なくない。「この食感を出せるのは工藤パンだけ」と自信を見せる。

■製法を変えていない

 マーガリンとグラニュー糖の配合は企業秘密だが、その配合は製造を始めた当初から変えていないという。青森県民に聞けば、高い確率で「部活帰りに食べた」と回答するほど学校周辺で売られているため、味覚を学生時代に刷り込みされている可能性は高い。ちなみに、工藤パンは戦後の栄養不足の子どもたちを給食の食パンで助けた実績があるため、これが学校周辺で提供できる土台になったそうだ。

■県内のコンビニを網羅

 平井さんによると、県内のコンビニエンスストアほぼ全店でイギリストーストを陳列。県内のスーパーには工藤パンのコーナーが必ずあるといっても過言ではないらしい。今年6月から参入が決まっている某コンビニエンスストアからも、イギリストーストの依頼があったという。

■2枚のパンを合わせるのはすべて手作業

 1日の出荷数が1万~1万4000個を数えるイギリストースト。実は、2枚のパンを合わせる作業を一つ一つ、4人の女性作業員が2人1組の手作業で行っている。作業自体は1時間に約4000個。5~6時間の勤務でさばいている。この手作業が、ふんわりした食感を維持しているのかもしれない。

■山崎製パンですらシェアを奪えなかった

 あまりにも浸透しすぎていて、「工藤パンは全国チェーンだと思っていた」というのは、青森県民あるある。現在は業務提携の関係にある全国シェアナンバーワンの山崎製パンも、青森の「食パン加工品」の分野では、工藤パンのシェアを奪えなかったという伝説がある。

 伝説をさらにもう一つ。同社は毎月必ず新商品を発表しており、イギリストーストもまた数多くのシリーズをリリースしている。「季節に合わせて常時5~6種類のイギリストーストを販売している」と平井さん。昨年は県産の特産品にこだわるあまり、青森県むつ湾産ホタテ貝柱入りのホタテマヨネーズをペースト状にした「青森県産ホタテマヨ」を出したが、期間限定だったこともあり静かに販売が終了した。

 ちなみに、弘前経済新聞で話題となった「イギリスフレンチトースト」は、実は同社においてイギリストーストとは別シリーズ商品として扱っている。このため、同社グループ会社「幸福の寿し本舗にお問い合わせください」ということだった。

取材・文・撮影:工藤 健/弘前経済新聞