もう一つの「ホテル・カリフォルニア」 あのリドホテルは今?
1976年にリリースされたイーグルスの「Hotel California(ホテル・カリフォルニア)」のレコードジャケットの写真は、外観は「ビバリーヒルズホテル」、内部はハリウッドにある「リドホテル」で撮影され、曲のコンセプトでもあるウエストコースト・ロックの終焉(しゅうえん)による退廃したマイナーなイメージを見事に表現している。その「リドホテル」がどこにあり、現在、どのようになっているのかを調べてみた。
「ホテル・カリフォルニア」のレコードジャケットのアートディレクションを担当したのは、ビートルズ「アビイ・ロード」、ザ・フー「フーズ・ネクスト」、ザ・ローリング・ストーンズ「ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト」などの実績があるコッシュ(Kosh、別名ジョン・コッシュ)。彼が選んだフォトグラファーがデビット・アレクサンダー(Devid Alexander)。2人は「ホテル・カリフォルニア」にふさわしいロケ地探しを行った。
外観として選ばれたのは「ピンクパレス」と呼ばれていた高級ホテル「ビバリーヒルズホテル(The Beverly Hills Hotel)」(9641 Sunset Blvd, Beverly Hills, CA 90210-2938)。あまりにもハイレベルなホテルだが、夕方に撮影すること、感度が荒いフィルムを使うことでマイナーなイメージを作り上げたといわれている。
撮影ポジションはサンセット大通り。本来ならホテルの内部は樹木などでのぞくことができないが、デビット・アレクサンダーはサンセット大通りにクレーン車を用意してその上から撮影。同ホテルの客室からも同じような写真を撮ることができるが、やはりアングル的にはサンセット大通りからの方が、情緒があるように思える。使用したフィルムは、リバーサル(ポジフィルムでネガがない)のエクタクロームハイスピード(ASA160)、カメラはニコンだったという。
内部の撮影として利用されたのは「LIDO HOTEL(リドホテル)」(6500 Yucca St Hollywood, CA 90028)。現在は「THE LIDO APARTMENT」となり滞在型の施設となっている。5階建ての同ホテル。細部を見ると決して安価に造られてはいないことがわかる。特に1階のロビーの暖炉、2階の回廊、ランプなどがあり独特の空間をつくり出している。
「ホテル・カリフォルニア」のイメージは、表面の「ビバリーヒルズホテル」で撮影されたイメージがメインとなっているが、見開きと裏面はリドホテルで撮影されたショットが使われている。見開きには暗いホテルのロビーを表現し、このホテルからの脱出を図ろうとするうごめく50人前後の人影が描かれている。裏面には、ゲストのいなくなったロビーを掃除する男性が一人いる写真が使われており、「ホテル・カリフォルニア」のドラマを表現している。
よく知られるのは、見開きの写真に写る2階からのぞく「亡霊」。見開きには写っているが、同じシチュエーションの裏面には登場しない。このシーンの撮影には、関係者やスタッフが動員されたとの話があり、「亡霊」というよりも関係者が「見切れ」た状況だろう。一部のCDでは、この「亡霊」のところにシールが貼られて見られない。イギリスからのレコードの場合、シールは表面に貼られているため「亡霊」を確認することが可能となる。実は、発売当初からジャケットにイーグルスの名前が印刷されていないため、シールを貼り「イーグルス」のアーティスト名をアピールしている。これも不思議な話だ。
撮影後、「リド・ホテル」はホテルから長期滞在型レジデンスに変わり、現在はリース型のアパートになっている。場所は、北はフランクリン・アベニュー(Franklin Ave)、南はハリウッドブルーバード(Hollywood Blvd)、東はノース・カフエンガ・ブルーバード(N-Cahuenga Blvd)、西はウィットレイ・アベニュー(Whitley Ave)に囲まれたハリウッド。「ビバリーヒルズホテル」がある隣の街。建物はユッカ・ストリート(Yucca St)とウィルコックスアベニュー(Wilcox Ave)に面しており、「リド・アパート(Lido Apts)」のサインが屋上に設置されている。
現在でも「リドホテル」を訪ねる人がいるという。「写真を撮影するというのではなく、イーグルスが歌い始めるやるせないメロディーを思い浮かべながら時を過ごしているようだ。きっとあの曲とともに生きてきた人なのだろう」と近隣の人はポツリと話す。