九州でおなじみの甘い醤油、中でもとりわけ甘いのはどの醤油?
「刺し身を食べる時につける醤油(しょうゆ)は?」と聞かれて「甘い醤油」と答える方は、おそらく九州および九州周辺にゆかりがある方だろう。味わったことがない方にはぜひおすすめしたい。では、甘い醤油としておすすめの醤油は何か?「醤油本」(玄光社刊)の著者で、全国の醤油蔵を訪れた高橋万太郎さんに話をうかがった。
「職人醤油」(群馬県前橋市)では高橋さんが厳選した77種類の醤油を購入できる
「刺し身醤油に定義はありません。ただ、九州の醤油は甘く、それ以外の地域は濃厚系の醤油が刺し身醤油として用いられます」(高橋さん)。筆者は山口県の西部の生まれなので、刺し身醤油といえば甘い醤油だった。上京した時に「なぜ、こんな辛い醤油をつけるのか」と不思議で仕方なかった。そこで高橋さんにこんな質問をしてみた。
――とりわけ甘い醤油を造っているメーカーはどこですか?
「鹿児島の藤安醸造です」
●日本で一番甘い醤油を造る:藤安醸造(鹿児島市)
藤安醸造は明治3 年創業。鹿児島で最も歴史の長い蔵元だ。鹿児島県内の飲食店、スーパー、学校などに20 台以上の自社トラックを使い、商品の7割を自社流通で届けてきた。鹿児島県内はもとより、大阪・東京はじめ、海外(アメリカ、中国、香港、台湾等)への輸出も積極的に行い、営業活動に努めている。
「地元の人に愛されており、2005年から本社で開催している『ヒシク ほれぼれ祭り』には、地元客2500人以上が集まり、大いに盛り上がます。この日は、社員総出で客を迎え入れます」一番人気は「専醤」。すき焼き、焼き餅、肉じゃがなど、砂糖いらず。甘い醤油になじみがない方も、ぜひお試しを。
●甘口醤油の料理術
甘口醤油を手にしたら、大いに活用したいところだ。甘い醤油に慣れていない人にもおすすめの調理法を紹介する。
・タイの作り方漬け丼:卵黄と甘口醤油をまぜ、タイの刺し身を30分ほど漬ける。薬味は大葉海苔やすりごまなどお好みでどうぞ。
・酢の物:通常は酢、醤油。砂糖と三杯酢にするが、酢と甘口だけでできる。目安は酢と甘口醤油の割合が3:2。
●あの調味料を醤油を用いて作ろう!
無数の調味料や料理の素が発売されている昨今。おいしそうな料理を作ったものの「あら! 肝心なタレ(ソース)がない!」ということはないだろうか。そんな時に覚えておきたいのが、醤油を用いた調味料の作り方だ。「醤油を使ってあの調味料が!? 」という新たな発見が味わえる。
「例えば、すき焼きは、だし2 醤油1 みりん1 砂糖1/3の割合で、野菜を足して味が薄くなった時は、醤油とみりんを1:1で足すと味が整います。みりんを無くして砂糖2/3~1にすると。こってりと仕上がります」
そのほか、天つゆは、だし5 濃厚醤油1 本みりん1、ドレッシングは醤油1、酢1、オリーブオイル1の割合で完成。これなら、すき焼きの素や天つゆなどを、慌てて買いに行かなくても済む。
もちろん、使用する醤油によって味が多少変わってくるわけだが、そもそも日本にはどのくらいの数 の醤油の蔵元があるか、ご存じだろうか。答えは、およそ1400。「人と話していて、『国内に醤油メーカーはどのくらいあると思いますか?』と質問しても、4~5社ほど名前を挙げられたら良い方ですね」
高橋さんの娘さんは6歳。子どものころから、“食の英才教育”を受けてきた。 「味覚に非常に敏感で、調味料や食材を変えただけですぐに気付ます。例えば、料理に使ったコンニャクを、いつも使っていたものと変えただけでもすぐに指摘してきます」なんと末恐ろしいことか。将来、結婚する旦那は味覚音痴だと怒られそうだ。
全国の醤油蔵を回った高橋さんは、群馬県前橋市で醤油のセレクトショップ「職人醤油」を経営。えりすぐりの醤油77種類を販売している。「職人醤油」公式サイトでも販売しているので「醤油本」(高橋万太郎・黒鳥慶子著 玄光社刊)と併せてどうぞ。
(取材・文/やきそばかおる 写真協力/高橋万太郎)