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インターホンを押すと船がやってくる!? 湯浅祥司さんに聞く「渡船」の魅力

インターホンを押すと船がやってくる!? 湯浅祥司さんに聞く「渡船」の魅力

呼び出しボタンを押すとやってくる「浦賀の渡し」

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 「渡し船」は昔の乗り物というイメージがあるかもしれないが、現在は関東だけでも8カ所で運行されている。なかにはインターホン(ボタン)を押して船を呼ぶ渡船もあるそうだ。乗り物界で独特の雰囲気を醸し出している渡船の魅力について、渡船マニアの湯浅祥司さんにお聞きした。

ポールに旗を掲げると……

●渡船の呼び方

 渡船は出発時刻が決められているものと、そうではないものとがある。

 「渡船場に船頭さんが待機していて、お客さんが来ると船を出す場合が多いです。もちろん、茨城県取手市の『小堀の渡し』のように、出発時刻が決まっている場合もあります」

 乗客にとっては乗りたい時に乗れるのが便利。出航時刻が決まっていればその時間に行けばすぐに乗れるが、運行する側にとっては乗客がいなくても運行しなければならない欠点もある。時刻が定められておらず、船が対岸にいる場合は船を呼ばなくてはならない。

1)旗を掲げると船がやってくる:赤岩渡船・島村渡船ほか

 赤岩渡船は、群馬県邑楽郡千代田町と埼玉県熊谷市葛和田を結ぶ。県道の一部として運行されていて、運賃は無料。年間1万6000人を超える利用者がいる。戦国時代にはすでに存在しており、上杉謙信の文献(案内状)にも渡船のことが記されている。

 「群馬県側の渡船場に小屋があり、乗る場合は船頭さんに声をかけます。埼玉県側の渡船場には無人の小屋のそばにポールが立ててあって、黄色い旗が吊るしてあります。乗る際は旗を掲げます」

 台風や大雨による増水などで運休になる場合は、群馬県側に赤い旗が上がる。究極のアナログなのである。電話で呼ぶ方法をとっても良さそうなものだが、昔ながらの方法で変わっていないところが面白い。

 島村渡船は、群馬県伊勢崎市の利根川によって南北に隔てられた境島村を結ぶ。かつては県道の一部だったが、2012年4月1日から市道へと移管された。運賃は無料。近くには世界遺産に登録された『富岡製糸場と絹産業遺産群』の構成資産の一つである『田島弥平旧宅』があり、渡船と併せて巡ってみるのも良いかもしれない。

2)インターホン(ボタン)を押すと船がやってくる:浦賀の渡し・城ヶ島渡船ほか

 浦賀の渡し(神奈川県横須賀市東浦賀と西浦賀を結ぶ)、城ヶ島渡船(神奈川県三浦市三崎と美崎町城ヶ島を結ぶ)など、ボタンを押して船を呼ぶタイプもある。

 「いずれも観光スポットとしても人気の渡し船です。浦賀の渡しは地元の住民の移動手段として使われてきましたが、浦賀の渡しの両岸にある叶神社がパワースポットになっていることもあって、観光用に整備されました。城ヶ島渡船は、かつて城ヶ島大橋が完成した際に廃止されましたが、2008年に50年ぶりに復活しました。今は観光客で賑わっています。船が桟橋にいない場合はインターホンで呼び出します」

 いわば、路線バスの「おります」ボタンならぬ、渡船の「のります」ボタンなのである。

●動力は……手漕ぎ !?

 渡し船の風情をより一層味わいたい人におすすめなのが「矢切の渡し」だ。千葉県松戸市下矢切(しもやきり)と東京都葛飾区柴又を結んでいる。矢切の渡しは五木ひろしの曲で一気に有名になったが、「矢切の渡し」は「やぎり」と読むのに対して、矢切という地名は「やきり」と読む。

 「強風や混雑時は動力を使用しますが、普段は船頭さんが手で漕いでいます」

 都内から気軽に行けるスポットで、非常にのんびりとしているのでおすすめだ。

 湯浅さんは、渡船の魅力を「私鉄と路線バスで行く 1都5県渡船旅行記」(発行:そよ風文芸食堂)と題して出版している。非常に分かりやすい文章で写真も満載。インターネットに載っていない時刻表も自分で調べて掲載するほどの力の入れようだ。5月4日に東京流通センターで開催する「文学フリマ」で頒布されるので、興味のある方はぜひ。詳細は「そよ風文芸食堂 本店」のサイトにて。

取材・文:やきそばかおる 写真提供:湯浅祥司